脳出血後の半身まひの鍼灸治療カルテ

脳内出血後の片麻痺

今回の症例は70歳代の女性の方。
脳内出血の後遺症で右半身麻痺(片麻痺)となってしまった女性の鍼灸治療です。

初診問診で感じた尊敬の念

初めて来院されたのは2020年の8月のこと。今から4年ほど前のことです。
この症状の発端となった脳内出血は2020年春のこと。病院で意識を取り戻したときには右上肢の感覚を失っていたそうです。4カ月間の入院中、感覚が無い上に、さらに右半身全体に痺れが強くなったそうです。

右半身麻痺のほかにも…

・右足裏・右腰背部に重い何かが詰まるような感じで苦しい。
・足裏は立つとき、歩くときに、皮膚の裏になにか挟まっているような異物感・不快感。
・右足の指が勝手に動き出す(不随意運動)

…という、自分の体なのに、感覚とは全く違い現状に戸惑い不安になっているご様子。

問診中に『この人は偉いな~、強い方だな~…』と思ったことがあります。
このようなツラい状況の中でも、言葉遣いが丁寧で穏やか、お人柄もものすごく柔らかいのです。
よほどの内面が強くないと、このような態度で人と接することは難しいものです。
柔和な表情や言葉づかいで現在の状況を伝えてくれる姿勢に、自然と敬意を覚えたものです。

初診以来、コツコツと通院を継続してくれ、日々に感じられる身体の改善・症状の軽減を伝えてくれました。

東洋医学でみる半身麻痺の体質と治療効果

この方の症状には次のような特徴があります。

・気温の影響を受けて悪化する
・湿度の影響を受けて悪化する
・症状悪化により精神的な不安を伴う

「精神的な不安が伴う」とは書きましたが、この方には持ち前の“芯の強さ”があります。
一時的な症状悪化に直面しても、そのつど身体症状の変化の理由を丁寧に説明すると、落ち着いて聴いてくださり笑顔を見せてくれました。

もちろん、鍼灸治療でも相応の効果を示しています。

・鍼灸治療で右半身の重く詰まった感じは軽減する
・頭が詰まった感じも治療後はとれる
・右半身全体の強ばりもゆるむ

以上の変化を実感しているからこそ、コツコツと通院してくださっているのだと思います。

鍼灸師のためのワンポイント情報

この方の病態を次のようにとらえています。

麻痺により、右半身における氣血の巡りが極端に低下。
そのため右半身全体の陽虚が顕著となり、湿痰の蓄積、外寒・外湿の影響を受けやすい状態となっている。
また寒邪は体を強ばらせ、湿邪は重く滞る性質をもつ。この寒湿のため、体が強ばり重く動作困難となり、半身麻痺が悪化したように感じる。
しかし、鍼灸治療で陽気を巡らせ、寒湿を取り除くことで、身体は柔らかさを取り戻し、重さは減り、動きやすくなる。

大きな治療方針としては、補気補血に祛湿行氣を加える。
陰経に補血(足太陰が主)、陽経に行気(手足陽明少陽が主)。
祛湿には主に陽明胃経を使います。
背部では右側の胆脾胃三焦兪に湿邪留滞の膨隆が見られるため、その部位を中心に祛湿・行気を鍼灸にて行います。

しかし、鍼治療後は心身ともに軽くなるのですが、日数を空けると症状が戻ってくる…といった状態が続いたのも事実です。
それでもこの方は私の治療を信じて通ってくれています。その姿を見るたびに『もっと良くなるように鍼をお灸を!』と思ったものです。

心動かされた言葉!

最も直近で心を動かされたのは、2024年の最初の治療のときでした。

今年初の会話が「先生、わたし箱根駅伝をみて感動しました。私もマラソンできるように走れるようになりたいです!」との言葉でした。

昔のようには歩けない状態で「走れるようになりたい」という言葉は、普通の人からすると「なにを無理なことを…」「まずはちゃんと歩けるようになってからね」などと思うかもしれません。

でもそのとき私はN山さんの言葉に素直に感動したのです。
『嗚呼、この人はまだまだ諦めずに上を目指しているんだな~』
『さらに良くなる時がくるぞ』と。

なので、素直に応援できましたね。
「N山さん、走ろうと思ったら、足の回復だけじゃない。腕の振りも大事です。今日から腕も振ってみようか!」と、上の目標に向けて盛り上がったことを今でも覚えています。

大きく変化をみせたのは2024年の春

そんな中、この春に大きな変化がありました。
2024年、4月某日の治療で私の顔を見るなり

「先生、私の脚が軽いんです!」と明るい声で報告してくれたのです。

にわかに信じられなかったのですが、運動困難であった右下肢をひょいひょいと挙げて見せてくれるのです。

「もう右脚が先に先にと動くんで、左脚がビックリするくらいです」と、コロコロ笑う姿に、私の方が癒される思いでした。

以来、運動(リハビリ)に、狭山池の一周を日課にしているとのことです。その成果のあらわれでしょうか、最近の腹診所見では下腹部の筋肉の緊張度(張り)がいい意味で増してきています。右脚をよく挙げて歩いてくれているのがよく分かる所見です。

足立繁久

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